真実を追い求めたその先に突きつけられる現実とは『心に雹の降りしきる』

『心に雹の降りしきる』はこんな人におすすめ

・正統派ではない警察小説が読みたい人
・ミステリー好きな人
・ハードボイルド小説が好きな人

信じた理想が必ずしも幸せに繋がるとは限らない。思い通りにならない現実の理不尽さがそこにある。

『心に雹の降りしきる』(香納諒一/双葉社)は少しの情熱と多くの冷たさが入り混じる一冊だ。

「心に雹の降りしきる」のあらすじ

この物語は、寂れた地方都市を舞台に、決して仕事熱心とは言えない不良刑事である都筑寅太郎を中心に巡っていく。

都筑は、7年前に行方不明となった少女の遺留品が発見されたとの一報を受け、少女の父親の自宅を訪れる。そこで、情報をもたらした興信所の調査員である梅崎を紹介された都筑は、情報がガセであり報奨金目当てだという見立てをする。かつて都筑は、ガセネタをもたらし、少女の父親から報奨金をだまし取った過去があり、梅崎にも自身と同類の匂いを感じ取ったからだ。

やむを得ず2人は手を組んだものの、梅崎は数日後に死体となって発見されてしまうのだった。

梅崎は電話で都筑に「なぁ、こんな偶然ってあるんだな」という言葉を残していた。梅崎は本当に何かをつかんでいたのか?7年前に行方不明になっていた少女は果たして…。

都筑が梅崎の死を追いながら、その先にある少女の行方不明事件に迫っていく物語。追い求める理想と現実の齟齬に翻弄されながらも結末に向かってゆく様が、実際の人生に重なり合う感覚を覚える。そして随所にちりばめられた悲哀が、現実味のある冷たさを物語にもたらしているハードボイルド小説だ。

【感想】思い通りにならない無慈悲な展開がリアリティをもたらす

望月真琴

ここから先はネタバレを含むため、書籍を読んでからお楽しみください。

この物語にはどこか荒涼とした雰囲気が漂い、理想的な展開にならない場面が続く。しかし、それが現実の世の中を彷彿とさせ、より引き込まれていく。

ただ受け入れることしかできない絶望

都筑が、松村祥子という女性の行方を追う場面がある。松村は出会いカフェのような店で働き、死んだ梅崎に協力していた人物だ。都筑は松村が攫われて人里離れた場所に監禁されていることを突き止め助けに向かうが、都筑も襲われてしまい一緒に監禁されてしまう。都筑はそこで松村が息絶える様を何もできずただ見ていることしかできなかった。

ありきたりな展開であれば、助けに来る人物が現れ、2人とも助かるという流れになるだろう。だが、監禁されてしまえば刑事も何もできないといった描写がリアリティをもたらしている。

思いがけない不注意から幸せを逃すことも…

都筑がDVの夫から追われていた弓子という女性を保護するかたちで出会い、弓子の子と3人で生活を送る場面がある。都筑はその生活に幸せを感じていたものの、自身の不注意から弓子に不信感を抱かせてしまい、関係は脆くも崩れ去ってしまう。

幸せをつかんだと思えば、すぐに離れていくといった経験は多くの人がしているのではないだろうか。人生はそう簡単にうまくいくものではないといった切なさが心に刺さる。
物語に引き込まれる一冊
この物語には次々と特徴的な人物が登場し都筑と絡みながらストーリーが展開していく。その中で、諦念にまみれた日常を送っていた都筑が次第に事件にのめりこんでいくところが見どころだ。物語が進むにつれて感情を揺さぶられるハードボイルドの傑作である。

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