『夜市』はこんな人におすすめ
・ファンタジー好きな人
・現実社会から逃避したい人
・妖怪など目に見えないものに興味がある人
夏になると、必ず手に取りたくなる小説がある。それが、『夜市』(恒川光太郎/KADOKAWA)。
2作の短編小説が収録されている本作は、第12回日本ホラー小説大賞受賞作。第134回直木賞の候補作にもなったので、書籍名を耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。
ファンタジー要素が散りばめられているのに背筋がゾクっとし、見てはいけない世界を覗いてしまったような気持ちになる独特な世界観…。それに読者は魅了され、恒川光太郎という作家にどハマリしてしまうのだ。
あらすじを紹介!収録作は「夜市」と「風の古道」
収録されているのは、「夜市」と「風の古道」という2作の短篇。早速、それぞれのあらすじを見ていこう。
「夜市」のあらすじ
大学2年生のいずみはある日、高校の同級生である裕司から「夜市」に誘われる。夜市はどんなものでも手に入る不思議な市場。裕司は、子どもの頃に行ったことがあるのだと言う。
初め、いずみはそんな市場が本当に開かれているのか信じられなかったが、公園の奥にある森で夜市はたしかに開かれていた。
いずみは帰ろうと言うものの、裕司ともども道に迷ってしまう。実は夜市は何か買い物をしないと出ることができないのだ。
途方に暮れたいずみは以前、裕司がどうやって帰ったのかを聞くことに。すると裕司は驚きの告白をする。なんと彼は小学生の頃、夜市に迷い込み、「野球の才能」と引き換えに自分の弟を売っていた。その罪悪感に苦しみ続けた結果、全財産である72万円を持参し、弟を買い戻すために今夜、夜市に来たのだと言う。
「風の古道」のあらすじ
主人公の私は7歳の春、花見に出かけた公園で父とはぐれて迷子に。その時、見知らぬおばさんに連れられ、奇妙な未舗装道を歩き、自宅まで帰るという体験をした。
12歳の夏休み、私はひょんなことからその話を親友のカズキにしてしまい、彼が強い興味を示したため、2人でその道へ入ることに。
この道、実は神々や物の怪の類だけの通り道となっている特別な「古道」。出ることができなくなった2人はレンと名乗る永久放浪者と出会い、出口を目指すことに。しかし、その途中、カズキは重傷を負い、死亡。
そこで、私とレンはカズキを生き返らせるために旅をすることになるのだが、その道中でレンの衝撃的すぎる過去が明かされる―…。
【感想】1ページ先も予想できないのが『夜市』のすごさ
古川
実は私、ファンタジー作品はどちらかというと苦手なタイプ。魔法や怪物など、現実社会になさそう(いなさそう)なものが描かれていると、イマイチ作品に入り込めない。けれど、本作は「ファンタジー」に留まらない面白さがあり、ページをめくる手が止まらなかった。
禍々しく、ホラー要素もあるこのブラックすぎるファンタジーは恒川氏にしか描けないもの。実際に起こり得ないことやなさそうな場所なのに、「もしかしたらこんな世界もどこかにあるのかもしれない」と思わせるのが、恒川氏のすごさ。登場人物の心の闇が丁寧に描かれているため、時に涙したり、共感したりとワクワク以外の感情も得られる。
収録されている2作品のうち、個人的に心に残ったのは、やはり書籍名にもなっている「夜市」。まず、弟を買い戻すという設定が斬新で惹かれる。そして、1ページ先が読めない筆力のすごさに感動した。
ある程度、先のストーリーを想像しながら読み進めていても、その推理は早々と打ち砕かれ、まったく予想していなかった展開が次々と待ち受けているので、ページをめくるごとにドキドキしてしまう。
古川