『土間の四十八滝』はこんな人におすすめ
・綺麗ごとが苦手な人
・INUのファン
言いたいことを躊躇うことなく感性主導で書かれたであろう27作の詩集。難解でありつつも心に刺さる言葉選びに惹きつけられる。
『土間の四十八滝』(町田康/角川春樹事務所)は意外性のある危うい言葉が散りばめられた、どこか美しさがある詩の数々に独特の世界観を感じる一冊だ。第9回萩原朔太郎賞受賞作。
町田康ってどんな人?
町田氏は80年代に活動していた「INU」というパンクバンド中心人物であった。このバンドでは『メシ喰うな!』というアルバムを発表。収録曲の『つるつるの壺』、『気い狂て』などは当時の音楽の既成概念にとらわれない独自性を感じることができる。
一方で作家としても1996年に小説『くっすん大黒』(町田康/文藝春秋)でデビュー。2000年には小説『きれぎれ』(町田康/文藝春秋)で芥川賞を受賞。その後も数多の小説や詩集を発表しており、非常に多彩でマルチに活躍している人物である。
『土間の四十八滝』はどんな詩集?
本書は単純にきれいな言葉が羅列されただけの詩集ではない。あまり普通の詩には使われないであろう言葉が目に飛び込んできたりする。2021年の今では危ういとさえ思える表現もある。どの詩を読んでも特異な世界観を感じる一冊だ。
おすすめの詩3選
個人的に強く印象に残った詩を紹介する。
1.飯屋が再び
愛の言葉を囁いている 思い出のこととか 料理のこととか 今晩の日程のこととか 阿保らしいことは止めろ (引用)
瀟洒なレストランで食事を気取った食事をする男女二人を表現した詩の一節。傍目に見て明らかに背伸びをして気取っている男女を見るとこの詩のように思うこともあるかもしれない。そこを真正面から“阿保らしいことはやめろ”と表現してしまうストレートさに意外性を感じ痛快でもある。
2.腸のクリスマス
無駄に甲高い声で 年中貧乏 と叫ぶ ネンジュービンボ そんな寂しい夜のクリスマス (引用)
日本人の誰もが形式的にクリスマスを祝うことを揶揄している詩の一節。恋愛について描かれた詩は世の中に数多で回っているが、どこか生活臭を漂わせるクリスマスの詩は斬新であり印象に残る。詩を通して反骨精神が感じられ、誰もが予想だにしないクリスマスの情景が描かれている1作だ。
3.とてもいい場所に幔幕
意を尽くして好きなように生きる はなれ技を演じ、そのまま死んでしまう 波が引くように日本語から助詞がなくなり 智識を捨てて虚空像菩薩に祈る (引用)
見た風景や考えたことを独特の表現で表している詩の一節。強い言葉で複雑な詩が多い本書の中では優しく感じ、どこか淡々としいるところが異彩を放っている。町田氏独特の雰囲気や言葉遣いはそのままに、ひとつの曲のようにも感じられる詩だ。