倒錯した性癖を持つ殺し屋とヤクザの運命は『殺し屋1』

『殺し屋1』はこんな人におすすめ

・バイオレンス漫画が好きな人
・裏社会を舞台にした物語が好きな人
・グロテスクな描写に耐性があるひと

圧倒的な残虐性を見せる者、それを目の当たりにし絶望を求める者。必然性を高めたふたりが交錯したその時ー。

『殺し屋1』(全10巻/山本英夫/小学館)は新宿のヤクザマンションを舞台に、殺し屋とヤクザが命のとり合いをしていく殺戮エンターテイメントコミックだ。

『殺し屋1』あらすじ

元いじめられっ子の殺し屋であるイチを擁するグループのリーダー“ジジイ”が、新宿のヤクザマンションに入居している武闘派組織「安生組」の組長を殺害し、組の資金である3億円を強奪。

安生組の若頭であった垣原は接触してきたジジイの情報に踊らされ、他組織の仕業と勘違いして、他組織の組員に拷問をくわえてしまう。それをきっかけにヤクザマンション内では抗争が勃発。垣原は抗争を起こしたことにより安生組を破門されてしまうが、次第に事件はジジイのグループの仕業だということに気づき、垣原組を立ち上げ、報復を誓い動き出す。

一方でジジイのグループはヤクザマンションの浄化作戦として、垣原組の殲滅を狙い、イチを送り込んで次々と垣原組組員を殺害していく。

次々と垣原組組員がイチによって無残に殺されていく中、真正のマゾヒストである垣原は、イチのサディストとしての残虐性に惹かれてゆく。マゾヒストとして本物の絶望を味わいたいと思っている垣原は、いつしかイチとの邂逅を希求するようになっていく。そして、出会ったふたりは相反する者同士の究極の殺し合いをすることになる。

いじめられていた頃のトラウマが蘇ると泣きながら躊躇なく人を惨殺してしまう究極のサディストであるイチ。絶望を味わわせてくれる相手を求め続ける真正マゾヒストの垣原。正反対のふたりがありとあらゆる殺しや拷問を展開していくところが本作の見どころである。

【感想】イチと垣原、究極のSとM

望月真琴

ここから先はネタバレを含むため、書籍を読んでからお楽しみください。

殺し屋のイチは過去のいじめのトラウマを利用されて殺しを行うたびに、自身が気が付かないまま、倒錯したサディストへと変貌を遂げていく。垣原はイチに命を狙われるときが近づくにつれて、マゾヒストとしての欲望を爆発させるようになる。

倒錯した性癖のイチ

見た目通りの気弱そうな青年であるイチは学生時代にいじめを受けていた。そのいじめのトラウマをジジイに利用され、殺しのターゲットが過去に自分をいじめた人物と重なった時に、泣きながら発作的に容赦なく相手を惨殺してしまう。

イチは実は空手の心得があり、踵に刃物を仕込んだシューズを履き、華麗な足技で情け容赦なく相手を切り裂いて殺害する。そして自分が殺した相手を見て性的興奮を覚える倒錯したサディストでもある。

いじめのトラウマを利用されて殺し屋をさせられるという斬新な設定に一気に興味を惹かれていく。そして特殊な性癖を持っていたりと感情移入し難い主人公であるところも独創性にあふれた本作の魅力だ。

拷問に長け、自身も絶望を求める垣原

古傷で口が裂けており無数にピアスを付けている垣原。見るに堪えない様々な拷問に長けているが、自身は痛みで性的快感を覚える真正のマゾヒストである。自身に絶望を与えてくれる相手を探し求めており、当初は安生組長の仇討ちを目的にしていたが、イチの情け容赦ない残虐性に惹かれ相対することを心待ちにするようになっていく。

拷問に長けたヤクザでありながら、極度のマゾヒストである垣原。彼の起こす度が過ぎた行動は見るに堪えないものの、感情が高ぶりイチとの邂逅に向かう様は、どこか彼を後押ししたくなってしまう。
SとMの殺戮エンターテイメント
新宿のヤクザマンションを舞台に繰り広げられる殺し合い。本作は単純な殺し屋とヤクザの対決を描いたものとは少し違う。倒錯した性癖を持つイチと垣原、どちらが最後に生き残るかというところに深く惹きこまれていく物語だ。グロテスクで残虐な描写が多いものの、本作は究極のSとMを描いた殺戮エンターテイメントである。

『殺し屋1』は映画もあり

『殺し屋1』は2001年に映画化されている。浅野忠信氏が演じる垣原は原作とかなり見た目が違っているものの、演技は非常に見ごたえがある。

 

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