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『竜の道』はこんな人におすすめ
・ドロドロした小説が好きな人
・裏社会系の小説に興味がある人
・家族をテーマにした小説を読みたい人
自分の信念を貫くことの重さ。『竜の道』(白川道/幻冬舎)は、それを私たちに訴えかけている。
本作は人気俳優の玉木宏さんと高橋一生さんのW主演でテレビドラマ化され、話題になったが、小説版には全く違った“竜の道”が描かれている。
『竜の道』のあらすじ
捨て子で養父母から酷い扱いを受けていた双子の兄弟、矢端竜一と竜二は自分たちを唯一、人間として扱い、空腹を満たしてもくれた吉野美佐の両親を大切に思っていた。
ところが、美佐の両親は強引な手法で全国展開を狙う二階堂急便の会長・二階堂源平に会社をだまし取られたことにより、車で崖に飛び込み、死んでしまう。
幸いにも美佐だけは奇跡的に一命をとりとめたが、両目の視力を失うという悲劇に見舞われてしまった。
最愛の人を亡くした竜一と竜二は、復讐の鬼に。2人は持ち前の頭脳を活かし、自分たちを蔑んだ世間を見返し、二階堂源平に復讐をしようと決意。そして、事が済んだ折には施設から美佐を引き取って一緒に暮らし、自分たちを捨てた実の両親を探し出して息の根を止めようと考えた。
竜一は火事で自分は死んだと周囲に思わせ、顔も名前も捨てて裏の世界を支配する道を選択。竜二はエリート国家公務員となり、表の世界で権力を得られるよう、奮闘する。
やがて、社長の大野木が偶然、病に倒れたことを機に竜一は会社の実権を握るように。大金や曽根村との関係をチラつかせ、裏社会を牛耳っている権力者たちを取り込み、源平を追い込む準備を着々と進めていく。
原作とドラマ版との大きな違いは?
①兄弟のバックグラウンド
妹のように思っている美佐と、矢端兄弟との間に血のつながりはない点はドラマも小説も同じ。だが、小説では竜一が死んだと見せかける際に養父母を殺しているという点が違う。
②兄弟の距離感
ドラマ版で竜一と竜二はホテルの一室でこまめに密会していたが、小説では復讐を果たすまで顔を合わせないと誓い、必要最低限の話のみ、電話でやりとりしている。この入念さからは、復讐への強い想いがひしひしと伝わってくる。
③美佐の人物像
盲目であること以外にも、美佐の人物像には大きな違いがある。原作の美佐は、未来を予知できる力を持っている。また、竜一が死んだと知っているものの「生きているような気がする」と話す。
そんな美佐の発言を受け、竜一は顔は変えられても声は変えられないことに不安を抱いている。
④竜一の設定
原作の竜一は、より知的で冷酷。曽根村の信頼を得るためなら、迷うことなく殺人にも手を染める。ドラマ版よりも人間味がないからこそ、竜一の闇が映え、その後の展開が気になってしまう。
⑤源平の娘・まゆみの生い立ち
ドラマでは源平の実の娘として描かれていたまゆみだが、原作では愛人の子という設定。芸者との間に生まれた隠し子であるまゆみは、物語の肝になっていきそうだ。
⑥登場人物の多さ
ドラマにも多くのクセ者が登場したが、小説はさらに登場人物が多く、みな個性が強い。そんな権力者たちを竜一が手の上で操りつつ、裏社会で力を得ていく過程はまさに圧巻だ。
【注意】一生完結することがない「兄弟の復讐劇」
一点だけ、読み始める前に知っておきたいことがある。それは、本作は一生完結することがない小説であるということ。なぜなら、作者の白川氏は2015年に亡くなってしまっているからだ。
本作の続編として『竜の道 昇龍篇』(幻冬舎)は発刊されているが、こちらでも2人の復讐劇は完結していない。
古川
作者がどんな思いを込め、このノンストップ・ノワールを生み出したのかも想像しつつ、ぜひ本作に触れてみてほしい。
【感想】超一流のノワールがここに
古川
私はNetflixで偶然ドラマを見て原作を手に取ったのだが、正直ド肝を抜かれた。実力派俳優たちが迫真の演技を見せてくれたドラマ版はすごくおもしろかったが、原作にはそれ以上の魅力があると感じたからだ。
源平に復讐することだけを考えて生きる、兄弟の苦しみ。それを見て、テレビの前で涙ぐんでしまうこともあったが、小説の矢端兄弟からはより強い復讐心と覚悟が伝わってきて胸が締め付けられた。
大金と曽根村の力をちらつかせ、表社会で権力を振るう大物を裏社会から取り込む、竜一。彼の選んだ道は、光など決して当たらない危険な道。人の命を平気で奪う竜一は周囲の人も自分の身も、どうなっても構わないと考えている。
竜一にとって復讐とは、おそらく人生そのもの。冷酷で頑なな生き方をしているから彼が願う復讐の重さが伝わってきて、なんとも言えない気持ちになる。
自分の感情など邪魔だとでもいうように心を殺す姿は痛々しくもあり、かっこよくもあった。
『昇龍篇』は担当編集者のあとがきも要チェック
絶筆作となった『竜の道 昇龍篇』には白川氏を担当していた編集者が解説を寄せているのだが、それがまたいい。
正直、普段、私はあとがきや解説はあまり読まないタイプの人間なのだけれど、本作の解説には目を奪われ、心揺さぶられた。身近で長く関わってきたからこそ伝えられる白川氏の人柄がたまらないのだ。
彼が心を込めた作品を手に取ることができて、本当によかった。いちファンとして、心から冥福を願いたい。