ラスト1ページが胸に刺さるサスペンス小説『ゆびきりげんまん』

『ゆびきりげんまん』はこんな人におすすめ

・サラっと読める小説を探している人
・ホラー小説が好きな人
・どんでん返し系の小説が好きな人
・サイコパスな人物が登場する小説が好きな人

決してライトなストーリーではないのに、なぜかすらすらと読めてしまい、数百ぺージがあっという間に終わってしまう。作家・堀内公太郎氏の作品には、そんな凄さがあると思う。

中でも有名なのが、第9回『このミステリーがすごい! 』大賞の最終候補作に選ばれた『公開処刑人 森のくまさん』(宝島社)。なんとも斬新な書籍名だったため、私も即買いした作品だ。

だが、知ってほしい堀内作品は他にも多くある。そのひとつが『ゆびきりげんまん』(しおん:絵/LINE)

被害者、加害者、傍観者の思惑が入り乱れる本作はラスト1ページまで楽しめる本格的なサスペンスホラーとなっている。

ゆびきりげんまん』のあらすじ

女子高生の家親佳奈子は両親が無理心中をしたことから、叔母家族と暮らすため、東京の高校に編入。そこは、世間をにぎわせた猟奇的殺人事件の被害者が通っていた学校だった。

凄惨な事件は、渋谷区円山町のラブホテルにて起きたもの。ホテルの一室で、小指を切り落とされた女子高生の遺体が発見されたため、「女子高生指切り殺人事件」と呼ばれ、話題となったが、犯人はまだ捕まっていなかった。

そんな状況の中、佳奈子の周囲で女子高生の小指が切断される事件が相次ぎ、ついには殺人事件も発生。実はその裏には、恐ろしい女子高生援助交際組織が絡んでいた―…。

犯人は一体だれで、何が目的なのか。ぜひそれを想像しつつ、どんでん返しだらけのジェットコースターストーリーを楽しんでみてほしい。

【感想】読後感に戸惑うサスペンスホラー

古川

ここからはネタバレを含むため、作品を読んでからお楽しみくださいませ。
なんて、切ない物語なんだろう。読後、こんな気持ちになるなんて、予想だにしていなかったため、自分でも驚いた。

スリル感もサスペンス要素もふんだんに盛り込まれているのに、ラスト1ページを読むと、物語の景色がガラっと変わり、なんとも言えない気持ちになる。誰と誰のやりとりか分からなかった会話が明らかになるにつれ、より悲しく、やるせなくもなってしまう。

私たちは生きていく中で、人との契りや自分自身への誓いなど様々な約束を交わす。けれど、まっさらな心で結んだ「ゆびきりげんまん」はふとしたことで足枷になったり、人を狂わせてしまったりすることもある。

「小指」を題材にしているからこそ、本作は約束と誓いの重さを痛感させられる一作だ。

裏テーマは「本当の家族とは何か」

本作のもうひとつのテーマは、「家族」だと言える。エピローグの後には、ぜひ再びプロローグを読んでみてほしい。すると、完読後だからこそ分かる、ひとりの少女の悲しみと絶望を知ることができ、本作の深さにため息が漏れる。

また、作中には叔母家族に引き取られた佳奈子の心理描写と他にもうひとつの家族の形が描かれているため、両者を対比してみると、改めて本当の家族とは何なのだろうと考えたくもなる。

よくあるサスペンスホラー。そんな言葉で片付けられない本作は、心が涙する良作だ。

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