破滅へと向かう決断の連続『夜光虫』

『夜光虫』はこんな人におすすめ

・ノワールが好きな人
・裏社会系の小説が好きな人
・どんでん返しのある展開が好きな人
金、権力、女、異国の地で自らの欲望を満たすことだけを希求し暗闇に向かって走り続ける男の物語。

『夜光虫』(馳星周/株式会社KADOKAWA)は日本から台湾へと渡り裏社会へと嵌っていく主人公を描いた、アジアンノワールの傑作だ。

『夜光虫』あらすじ

かつては神宮球場のヒーローともてはやされ、日本のプロ野球ではノーヒットノーランを記録するなど、輝かしい成績を残していたプロ野球選手の加倉昭彦が主人公。プロ野球選手として前途洋々だと思われていた加倉だったが、肩の故障により引退してしまう。引退後に事業を始めたものの失敗し、離婚も経験、借金だけが残ってしまうことに。

酒とギャンブルに溺れ、やけくその日々を送っていた加倉だったが、野球雑誌のライターのつてで台湾のプロ野球で再起を飾る。

それでも日本で作った借金や将来の不安から、加倉は台湾マフィアの誘いに乗り八百長に手を染めていくことに。そこから加倉の人生は狂い始め、二度と後戻りできない暗黒の世界へと自ら進んでいくことになる。

殺し、裏切り、騙し合いを重ねながら、破滅へと向かっていく主人公の加倉。破滅に向かいながらも台湾の裏社会でタフに生き抜く様が本作の見どころだ。熱気にあふれる街や、夜市、檳榔を噛む描写など、台湾を肌で感じられるような雰囲気も本作の魅力である。

夜光虫とは?

夜の海の波打ち際が青白く光っているのを見たことがあるだろうか。青白く光りながら寄せては返す波の正体が夜光虫だ。夜光虫は赤潮の一種であり、夜にだけ物理的な刺激を受けると発行する。

作中に出てくる台湾の夜景のきらめきと、狂気を増しながら闇に落ちていく加倉のある種刹那的な輝きが、夜にだけ冷たく光る夜光虫のイメージと重なる。

YouTubeでの書籍レビュー

【感想】犯した罪を塗りつぶすためさらなる犯罪に手を染めてゆく

望月真琴

ここから先はネタバレを含むため、書籍を読んでからお楽しみください。
主人公の加倉が最初に犯してしまった過ちを隠すため、さらに罪を犯し、次第に後戻りできないところまでどっぷりと闇に落ちていくところが本書の見どころだ。始めは半ば衝動で人を殺してしまった加倉が徐々に狂気じみていき、自身の目的のためには手段を問わず躊躇いなく極悪非道な選択をしていくようになる。

しらを切れ、ごまかせ、丸めこめ!

加倉はチームの八百長を告発したチームメイトを自らの保身のため半ば衝動的に殺してしまう。その殺人をきっかけに歯車が狂い始め、幾多のトラブルを抱え込んでいくことに。自らの欲望と保身のため、加倉はその後も殺人を犯していくことになる。

加倉は殺すときには、頭の中で「こいつを黙らせろ」という声が何度も聞こえ、内なる狂気に後押しされ殺していく。しかし、警察に疑われた時などは「しらを切れ、ごまかせ、丸めこめ」と自分に言い聞かせ、キレる頭をフル回転させて窮地を突破していく冷静さも併せ持っている。

狂気じみた一面と、目的のためには手段を問わず大胆な選択を取るようになっていく加倉の変貌ぶりが見どころだ。

表と裏の狭間で生きる葛藤

マフィアと手を組んで八百長に加担し、人殺しにも手を染めた加倉は、次々とトラブルが振りかかり幾度となく窮地に立たされることになる。そんな加倉が弱音を吐く場面が印象深い。

悪党を演じるにはおれは心が弱すぎた。善人ぶるにはおれの手はあまりに汚れていた。

表と裏の狭間に生きる者が実際に抱えていそうな思いにリアリティを感じた。加倉はそこからさらに後戻りできない世界へと足を踏み入れていく。

最後に生き残るのは…
加倉が次々と欲望のために犯罪を犯していく物語だが本作はそれだけではない。台湾マフィアの争いや、台湾マフィアの首を取ろうとする加倉の親族などが入り乱れ、お互いに取り入ったり裏切ったりしながら怒涛の展開が続いていく。最後まで誰が生き残るのか予想できず、どんでん返しの展開が味わえる暗黒小説だ。

19年の時を経て発売された続編『暗手』もあり

『夜光虫』(馳星周/株式会社KADOKAWA)は実は1998年に発売された小説だが、2017年に続編となる『暗手』(馳星周/株式会社KADOKAWA)が発売されいる。こちらは台湾からイタリアへと舞台を移した物語。馳氏の真骨頂を味わえるノワールだ。

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