ひとりの大学生がドン底まで堕ちて…大人にも響くノワール青春小説『東京難民』

『東京難民』はこんな人におすすめ

・一風変わった青春小説が読みたいと思っている人
・平凡な日常に飽き飽きしている人
・何か大きなことを成し遂げたいと考えている人
・夢や希望を忘れてしまった人
・ふとした時に生きる意味を考えてしまう人

いつまでも続く平凡な日常が、ある日突然、崩れてしまったら、自分はどう「今」という瞬間を生きていくだろう。『東京難民』(福澤徹三/光文社)は、そんな問いを自分に投げかけたくなる長編小説。

上下巻に分けられた本作はひとりの大学生の転落劇にハラハラドキドキさせられる、ノワールな青春小説だ。

『東京難民』上巻のあらすじ

東京の私立大学に通う時枝修は親元を離れ、自堕落な日々を過ごしていたが、夏休み明けに担任から呼び出され、学費未納で除籍になると聞かされ仰天。すぐさま実家に行ってみるも、両親は借金を抱えて失踪していた。

途方に暮れた修は友達のツテを借りながらポスティングやテレアポといったアルバイトをするものの、どれも上手くいかない。挙句の果てには家賃が払えなくなり、住居も追い出されてしまう

貯金もなく、住む場所も失った修。そんな彼が辿りついたのは、人間のあらゆる欲望を飲み込んでくれる新宿・歌舞伎町。眠らない街で修は、さらにドン底へと堕ちていく―…。

『東京難民』下巻のあらすじ

ひょんなことからホストクラブ「トワイライト」で働くことになった修はようやく指名が取れるようになり、ホストとして花開くかもしれないと期待に胸を弾ませていた。

しかし、その矢先、先輩ホストのトラブルに巻き込まれ、一緒に店を飛び、日雇い労働者に。

その後は先輩ホストと共に真面目に日雇いの仕事をこなし、ようやく少しだけ未来が見えてきたと感じ始めるが、またしても、その身に不幸が降りかかる。なんと、飛んだ店のオーナーに居場所を知られてしまい、中国に売り飛ばされることになってしまうのだ。

果たして、修の人生はどこまで堕ち続けるのか。世間知らずで自分に甘い、ひとりの青年の成長物語は王道な青春小説とは一味違う読後感を与えてくれる。

【感想】ひとりの青年の転落劇から人生を学ぶ

古川

ここからはネタバレを含むため、作品を読んでからお楽しみくださいませ。
修は深刻な問題に直面しても、どうにかなるだろうと楽観的に考えてしまう青年。堕ちるところまで堕ちても現実逃避をし続けたり、誰かがなんとかしてくれるだろうと思ったりし、自分の身に起きている問題を深刻に考えない。

その性格につい苛立だってしまうが、よく思い返してみれば若い頃の自分にも修のような甘さがあったような気がする。自分の人生なのに、誰かがなんとかしてくれるという無責任な甘えを、あの頃の無知な自分は抱いていた。

そんな生き様が、下巻では一変。修は弱肉強食な社会を知っていく中で、徐々に心に芯を持ち、自分の意思で行動するようになっていくのだ。

大学生は大人と子どもの狭間に当たる年頃だと思う。そんな繊細な時期に裏社会を渡り歩いた末にホームレスとなりながらも、もがきながら人生を築いていこうとする修の姿には心動かされるものがあった。

治験で金を得える人やティッシュ配りのバイトで一生を終えようと考えている人、若者を言葉巧みに騙して金をむしり取ろうとする人など、本作には修に関わる形で様々な大人が登場。読者は修の生き方だけでなく、そんな大人たちの生き様も踏まえて、人生の築き方を見直したくなる

「人生の豊かさ」ってなんだろう

お金がすべてではないと言うけれど、この世ではお金がないと何もできないし、生きていけない。社会的弱者を狙う貧困ビジネスも横行している。でも、生きていく中でお金ばかりを重視するのも何か違う気がする。

若かったり無知だったりすると、社会で痛い目を見ることが多い。この世で上手く生き抜く術など誰も教えてはくれないから、豊かに生きる方法を自分自身で探っていくしかない。けれど、そうやって追い求める「豊かさ」の正体とは一体なんなのだろう。何に重きを置き、どうやって生きていけばいいのだろう。

そんな問いに答えをくれるのが、弱肉強食なこの世のリアルを伝えつつ、どんな生き方をしていきたいのかと尋ねてくる本作。現代社会の闇を浮き彫りにしたこの小説には若者だけでなく、大人もハッとさせられる気づきがたくさん詰まっている。

大都会の底辺でもがく、ひとりの青年―…。彼の奮闘から学ぶことが、あなたにもきっとある。

Amazonプライムビデオでは実写版も配信中。

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