『北斗』はこんな人におすすめ
・家族をテーマにした小説が好きな人
・社会派ミステリーが好きな人
・影のある話が好きな人
何年経っても、心から離れない本というものが読書好きにはあるもの。今回、紹介する『北斗 ある殺人者の回心』(石田衣良/集英社)は、私にとってそんな一冊。
寝食を忘れるほど貪り読み、ティッシュが手放せなかった。
『北斗 ある殺人者の回心』のあらすじ
両親からひどい虐待を受けて育った、端爪北斗(はしづめほくと)は高校生の頃、父親の死をきっかけに、里親の近藤綾子に引き取られ、人生が変わった。人を愛することや人から愛されることを知らなかった北斗にとって綾子は生まれて初めて出会った信頼できる人であり、自分を心から想ってくれる大切な存在だった。
どんな自分も受け入れてくれる綾子との生活は、まるでようやく訪れた「春」のよう。しかし、幸せは長くは続かない。なぜなら、ほどなくして綾子は癌に侵されてしまい、卑劣な医療詐欺に遭ってしまったから。失意のうちに命を落とした綾子の姿を見た北斗は詐欺師たちに復讐心を抱き、殺人を決行。警察に逮捕され、裁判にかけられることになった。
【感想】書籍名の「回心」が心に刺さる小説
古川
改心…心根を改めるという意味。
本作の主人公・端爪北斗に「回心」という言葉が向けられたのは、彼の性根は清いからだ。幼い頃から両親に虐待されてきた北斗は愛を知らない子どもだった。その孤独がひしひしと伝わってくるのが、幼少期の北斗が自動販売機を抱き、その温かさに驚くシーン。
父親や母親よりも自動販売機が温かいと感じるほどの孤独とは一体、どれほどのものなのか…と心が痛む。
そんな愛を知らない少年が成長し、人に愛され、愛を知っていく過程は微笑ましかった。だからこそ、心の支えであった里親の綾子がなくなる下りは辛い。
古川
そして、復讐心に駆られ、殺人を犯していく姿を見ている時は「彩子さんはそんなことを望んでいない」と本越しに伝えたくなるほど、心が揺さぶられた。
だが、北斗は殺人を犯したことで、自分の人生と本当の意味で向き合うことになる。
北斗というひとりの青年の幸せを願いたくなる
彼の犯した殺人という罪は、決して許されるものではない。だが、そこに至るまでの経緯や感じてきた痛みを踏まえると、北斗に必要だったのは改心ではなく、回心だったのだと分かる。罪を償うこと前に、自分の命を大切に思えるように回心する…。それこそが、北斗にとっては大切だったのだ。
それに気づき、改めて書籍名を見直すと、何とも言えない気持ちがこみあげてきて、フィクションだと分かっているのになぜか北斗というひとりの青年の幸せを願わずにいられなくなった。