『震える牛』はこんな人におすすめ
・食に関心がある人
・王道な警察小説が好きな人
耳にしたことはあるものの、なんだか自分には難しそうな気がする小説。私の中で『震える牛』(相場英雄/小学館)は、そんな存在の作品だったので、何年も本棚に保管し続けていた。
けれど、読み始めてみて、自分は長い間もったいないことをしてきたのだなと後悔。ストーリー展開、疾走感、物語の重厚さ、そして読後感…そのどれもが秀でている本作はまさに名作。
単に読み物として面白いだけでなく、“食”に対して警鐘を鳴らす問題提起作でもあり、自分の日常を見つめ直したくもなる。
『震える牛』のあらすじ
警視庁捜査一課継続捜査班に所属する田川信一は発生から2年が経っても、いまだ解決していない「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」を再捜査することになった。
この事件は金目当ての不良外国人が犯人だと考えられていたが、田川の地道な捜査と、とある記者の奮闘により、新たな犯人像が浮かび上がってくる。なんと、事件の裏には地方都市への進出を果たす、大手ショッピングセンター「オックスマート」が絡んでいたのだ。
作者の食に対する想いを受け止めつつ、安全な食を選ぶことの難しさを、まずは知ってみてほしい。
【感想】疾走感とリアリティがピカイチな名作
古川
また、業績を伸ばし続けている大手ショッピングセンター「オックスマート」が加害者であり、被害者でもあるという点も面白い。自社を守るために身内を庇うオックスマートも実は他企業から脅され、消費者を裏切るようになったという展開がリアルだと思った。
そして、ラストに待ち受ける警察内部の意外な裏切りも心にずしりと響く。めでたしめでたしなハッピーエンドではなく、理不尽で歯がゆい結末が待ち受けているからこそ、リアリティがあるのだ。
本作に描かれているような闇は今も、日本のどこかにはびこっているのかもしれない。感読後、自分の体は本当に安全なものでできているのだろうかと、ひとりごちたくなったのは、きっと私だけではないと思う。
消費者は“食”をどう取捨選択していくべきか
本作に触れると、自分の口に入れる食べ物をどう見極め、取捨選択していくのかを考えていきたくなる。
私たちは日々、様々な食品のパッケージに記されている成分表を鵜呑みにし、時には表記を見もしないで食べ物を体に取り込んでいるが、それは改めて考えたら、とても恐ろしいことだ。なぜなら、その裏には、腹の底に秘めた各企業の思惑や数珠繋ぎのような負の連鎖があるかもしれないから。
そうした危険から自分の身を守るには、まず無防備の恐ろしさに気づくことが重要。そのためにも、本作を手にし、改めて食との向き合い方を考えていきたい。
口に入れる物すべてを疑うことは苦しいし、疑惑の目を向けることを習慣化することは難しいだろう。でも、少しだけ自分自身へ警告をし、ひとつひとつの食品を吟味することなら、私たち消費者にもできるはずだ。