『すじぼり』はこんな人におすすめ
・一風変わった青春小説を探している人
・何かに熱くなることを忘れた人
・自分の人生に悩みを抱いている人
自分が若かった頃も、年を取ってからも、無気力で諦念にまみれた人生に嫌気がさした経験があるひとは多いのではないだろうか。なし崩し的にでも違う世界に飛び込んでみると、意外と熱くなれる自分に気づくことがあるかもしれない。
『すじぼり』(福澤徹三/株式会社KADOKAWA)は、ひとりの大学生を主人公に、大学生の視点から、ヤクザの世界描いた一風変わったアウトロー小説だ。第10回大藪春彦賞受賞作。
『すじぼり』あらすじ
北九州に住む大学生の亮はろくに学校へ行かず、4年生になっても就活をせず無気力な日々を過ごしていた。ある日、亮はつるんでいた同じ大学の友人の思い付きでクラブから大麻を奪う計画に協力することになってしまう。
杜撰な計画は失敗に終わり、追われて逃げた亮はとあるバーに逃げ込む。そこで偶然居合わせた真和会の速水に窮地を助けられることに。
その出来事を境に亮は真和会の事務所に出入りするようになり、個性豊かなヤクザ達と交流を持つことで、しだいに裏社会へと惹きつけられていく。
しかし、亮が友人たちと大麻強奪を企てたクラブは仁龍会がバックについていたため、亮を助けた真和会は、仁龍会との抗争になってしまう。真和会を取り巻く状況は徐々に悪化していき、しだいに危機的状況へと陥っていくのであった。
「すじぼり」とはどういう意味?
「すじぼり」という言葉だけ聞いてもピンとこない人もいるのではないだろうか。「筋彫(すじぼり)」とは実は入れ墨で使われる用語である。
入れ墨を彫る際は、初めに単色で入れたい絵の輪郭を掘り、その後で色を入れて完成させていく、という流れになる。「筋彫」とは“入れたい絵の輪郭を彫っただけの状態”を指す。いわば、色が入る前の絵のみ描かれた未完の状態なのだ。
実は、この「筋彫」という言葉が主人公のことをよく表しており、知っておいていただいた方が物語に入りやすいかもしれない。
【感想】破滅への道をたどる物語の中に感じる活力
望月真琴
本書の見どころは、自堕落な日々を送っていた亮が、真和会のヤクザとともに過ごすうちに、人間として成長していくところだ。
本気で考えることで人は変われる
真和会の事務所に出入りするようになった亮は、最初のうちは若い衆である松原にパソコンを教えるのが仕事だった。しかし、次第に他の組員とキリトリ(債権回収)を任されるようになる。中には、金を返そうとしない厄介な債務者も出てくるが、組長の速水に一喝された亮は、自ら考えた方法で見事回収するのであった。
任侠道に生きる者の覚悟
亮にとって親友と呼べるほど中を深めていた真和会の若い衆である松原は、抗争によって凶弾に倒れてしまう。亮は堅気であるものの復讐を誓い、より真和会と密接になり、自身の覚悟を示すため背中に入れ墨を彫ることに。だが、金の工面ができず、入れられたのは筋彫まで。そして、亮自身もいざとなると腹をくくりきれず中途半端な心境で抗争に身を投じていくことに。
望月真琴