『逃亡者』はこんな人におすすめ
・読み応えのある長編小説を探している人
・小説でスリル感を味わいたいと思っている人
・普段から事件ものに興味や関心がある人
小説とルポルタージュの中間のような物語が、とても好きだ。実際に起きた事件を題材にしているサスペンス作品には、独特のスリル感が漂っていると思う。
特に、折原一氏の『○○者』シリーズには毎回ドキドキさせられる。本シリーズには誰しもの記憶に残っている凶悪事件が描かれているのだが、折原氏の筆力により、全く違う物語に仕上がっている点が面白い。
そんな『○○者』シリーズの中でも、寝る間も惜しみ、貪り読んだのが『逃亡者』(文藝春秋)。
本作は、時効直前で逮捕された「松山ホステス殺人事件」の福田和子をモデルにした叙述ミステリーだ。
『逃亡者』のあらすじ
友竹智恵子は同僚に交換殺人の提案を持ち掛けられ、彼女の夫を殺害。その後、警察に逮捕された。しかし、ひょんなことから脱走に成功。ここから、整形手術で顔を変え、身分を偽った智恵子の逃亡劇が始まる。
警察だけでなく、DVの夫からも逃げ続ける智恵子。彼女の時効は15年。何度も掴まりそうになりながらも、智恵子は上手く追っ手の目をかいくぐる。
決して日の光を浴びてはいけない、幸せなど望んではいけない長い逃亡生活…。しかし、その先にあるのは、予想を裏切る驚くべき真実だった。
【感想】福田和子のようで福田和子じゃない「逃亡者」がここに
古川
福田和子を思わせるストーリー展開なのに蓋を開けてみれば、「智恵子」という全く違った女性の人生が描かれているところが本作の面白さ。息つく暇もない、疾走感溢れる逃亡劇を目にすると、智恵子という人間が本当に存在しているかのような、あるいは一緒に逃避行しているような感覚に陥る。
文庫版で500ページ越えしている本作は、長編小説だと言える。だが、魅力的な登場人物が多く登場したり、テンポよく物語が進んだりするため、あっという間に読み終わってしまった。
読み進める前と読後では書籍名の感じ方が全く違ってくる点もユニーク。「逃亡者」に込められた真の意味が分かった後は、再読して答え合わせをしたくもなる。